プロジェクト運営のリアルな現実 −分かってそうで分からないこと− 開発の現実

研究開発では、常に次の世代をリードする製品を目指し、新たなチャレンジに向けて、エンジニアは、日々作業に没頭する。エンジニアは、チャレンジングスピリットを持ち、遣り甲斐を求めて、果敢に作業に当たり、そして成果を勝ち取り、充実感に浸る。大きな一仕事終えたエンジニアは、これまでの様々な苦労と、自分が成し得た大きな成果を思い返し、感慨に浸る。次の構想は、既に頭の中に浮かんでおり、次も世の中をあっと言わせるような製品を、世に送り出すぞと気合が入る。


このような、よくテレビに出てくるような、ヒット商品開発秘話や、一昔前の古きよき時代の研究開発像は、現代の世の中には、ほとんど存在しない。実際には、日々業務に追われ、会議や緊急対応に奔走し、寝る間もプライベートも無い生活を延々と繰り返す。家族と向き合う時間も無く、休日も返上し、国内外を問わず飛び回る。上層部から要求される機能とスケジュールに頭を悩まし、なんとかやり繰りすることに四苦八苦する。結局、スケジュールの帳尻が合わなくなり、上層部に対する報告ばかり気にしている。そこに理想は無く、本来頭に浮かべるべきユーザーさえ見えていない。見えているのは目、の前の業務と、上層部や上司の顔だけである。だが、さんざん苦労してプロジェクトを完了させたとしても、休む間もなく次のプロジェクトが始まり、そのプロジェクトは、既にスケジュールが遅延している。


なぜ、このような現状になっているのだろうか。多少の残業や、苦労があるのは、研究開発の常であるが、本来研究開発とは、創造的で、チャレンジング精神にとんだ、ユーザーを心躍らせる製品を、世に送り出す使命にあるはずである。問題は、複雑に絡み合い、簡単には解けないパズルに等しい。


これらの問題のひとつには、経営・営業優先の開発スケジュールにあると考えている。スケジュールの項で説明したが、経営・営業的スケジュールを、開発スケジュールに転換できていない。そのため、現実に沿わないスケジュールの元で開発を行い、進捗遅れにより、常に担当者に負荷がかかっていることが挙げられる。二つ目には、プロジェクトの計画フェーズが、正常に行われていない。開発では、元来、計画フェーズが一番重要な地位を占めているにもかかわらず、過密スケジュールを意識するあまり、ずさんな計画の元、開発に手をつけてしまう。その結果、開発漏れが多数発生し、手戻りが多く発生する。その他にも、リーダーや中堅社員の高負荷から、部下の育成が行われていなかったり、標準化や諸規定により、不要な業務が増大しているなどの理由が挙げられる。


これらの問題は、全てが現場レベルで解決できる問題ではないだろう。だが、これまでの間違った考えを改め、真のエンジニアの姿とはどうあるべきなのか、研究開発とはどうあるべきなのかを、今一度考え直し実行すれば、改善の余地はあると考える。これまでの章でも、管理者の心構えについて多少記述をしているが、本章にてプロジェクトを運営する上での、陥りやすい問題に対する考えを、記述していきたいと思う。


vol.31

スケジュールといっても、経営・営業の出す「戦略上のスケジュール」、技術が目標とする「理想のスケジュール」、そして現場の状況を知らせる「現実のスケジュール」をそれぞれ明確に別のものとして認識することが大事と思います。それぞれのスケジュールごとに大きな意味を示しています。これらのスケジュールをいっしょくたんに扱っているので、それぞれの見解がずれていくのではないでしょうか。


いずれにせよ、にんげん「めり・はり」が大事です。仕事にのめりこむのもよいですが、自分のケアもわすれずに。。